風の電話
岩手県上閉伊郡大槌町浪板第9地割36-9 ベルガーディア鯨山
父と母が亡くなった時、「またね、元気で」と挨拶して送り出した。死んでしまった人に「元気で」とはおかしな言い方だが、わたしは彼らが墓石の下で眠っているのではなく、天国へ旅立ってそこで第二の人生を元気に暮らしていると信じている。
そんな二人に電話をかけてみたくなった。
「便りのないのは無事の知らせ」とは言うものの、やっぱりどうしているか様子は知りたい。まさか天国で病気をしたり食べものに困るようなことはないとは思うけれど、その暮らしぶりを聞いてみたいと思った。
個人のお宅のなかにあるその電話ボックスは、誰にでも解放されていて自由にお借りすることが出来る。よく手入れされたお庭の景色に心が安らぐ。
電話機は昔の黒電話で受話器が思いのほか重たくてびっくりした。落とさないように大事に両手で抱えて耳を当ててみる。
「元気?そっちの暮らしはどう?楽しくやってる?」
静けさの中で仰ぎ見る空は広く高くて、雲の上から二人の笑い声が聞こえたような気がした。